飲みかた(後編)

西麻布Bar Orange・メーカーズマークのオン・ザ・ロック

(中編からの続きです。)

前編と中編でいろいろと書き連ねましたが、店もバーテンダーも様々です。ワイルドターキー12年にせよ、それ以外の銘柄にせよ、飲みかたの指定をせずとも、ウィスキーを頼めば水割りで出てくる店もあるでしょう。またはオン・ザ・ロックで出てくる店も、あるいはストレートで出てくるバーも。ストレートの場合には「あ、氷を入れて下さい」とか「ソーダ割りに」と、変更は容易ですが。そのストレートでも、ショットグラスなのか、それともチューリップ型をしたグラスなのかなどにより、同じお酒でも感じ方は大きく違ってくることでしょう。

先に挙げた水や炭酸以外にも、割る、と言いますか、足すもの満たすものはいろいろあります。トニックウォーター、ジンジャーエール、コーラ、オレンジやグレープフルーツ等の果汁、トマトジュース、コーヒー、紅茶、お湯、ミルク…などなど。

ワイルドターキー12年のオン・ザ・ロックにソーダを少し加える、ですとか、ビターを1〜2滴たらす…など。トゥワイス・アップでも、酒と水の割合を1:1だけでなく、1:2や1:0・5など。炭酸でもお湯でもかまいません。

余談ですが、カクテルではどうでしょう。前述の「なにを」「どのように」で見てみますね。「なにを」にはたとえば「ドライ・マティーニ」。ここ日本では「どのように」を伝えなくても、一般的に「ジンをベース」に「ステア」して「カクテルグラス」に注がれて出てきます。

でも「ウォッカをベース」に「シェイク」して「オン・ザ・ロック」で「オリーヴを2個」添えて「レモンピールは無し」という風に、複合的にも「飲みかた」を気分や雰囲気によって、自分流にアレンジする面白さもあるわけです。

今回、一連の「飲みかた」解説の最初のほうで、流れや決まり事がある、と書きました。矛盾するようですが、いままで見てきてお分かりのように、実は決まりなどはないのです。むしろ自由度は無限です。極端なはなし、たとえ100年物のブランデーをコーラで割っても罰せられることはありません。飲みかたなんて、しゃらクセぇこと言わずにストレートで飲れ!という意見にも反論しません。ご自宅でしたら、逆立ちしながら耳で飲んでも、もちろん自由です。

「どのように」を先に決めて「なにを」頼むかを選ぶのも目線が変わっていいですね。「ソーダで割って美味しく飲めるスコッチを下さい」という風に。要は「飲みかた」を10通り知っている人は、ネガティブな水割りしか知らない人より、単純に言えば10倍の楽しみ方をしているという事です。知らないと損ではありませんが、知っていれば得、と言えるかも知れません。

中編の冒頭に「どれくらい」という言葉がありました。これはお酒の分量のことです。シングルといえば30ミリリットルくらい、ダブルだとその倍量です。バーによっては、何も伝えないと最初からダブルで調製するところもあるようです。これはそのお店のポリシーなのでしょうが、それに身を委ねてみるのもひとつの手ではありますね。今回の「飲みかた」の項ではすこし蛇足ですが、初めてのバーや懐具合に不安があれば、はじめに「予算は幾ら」も伝えておくと良いかも知れません。

「飲みかた(前編)」冒頭の、悪夢のような出来事を経験し「バーはもう懲りごり」とならず、それどころかバーテンダーという職を選んだ私が現在思うことは、初心者のかたもベテランのかたも、マニュアルにとらわれ過ぎずに楽しんでください、ということです。バーという形態のお店だけでも百花繚乱。なかなか大変でしょうが、ぜひご自身にピッタリあうバーを見つけてください。困っているお客様を見れば親切に聞いてくれるバーテンダーを探してください。そして仲良くなることです。通り一遍のこと以上の知的好奇心を、きっと満たしてくれるハズです。

くだんのお店で「ワイルドターキー12年をダブルのストレートで!チェイサーはビールを!」と、現在の私なら胸を張ってリベンジしたいところですが、今となっては、どこのなんというバーだったのか、まったくもってサッパリ思い出せないのが残念です。

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