零の発見

数学が苦手でした。
と、過去形で書くと今は得意みたいですが、すくなくとも、好きになりました。

義務教育のころ、国語のテストの解答を、のらりくらりと潤色したのに較べて、曖昧を許さず、レールを敷いたような解法を強いられる(ばかりではないのが判るのは、もっと後のこと)のが苦痛、ところが長じて後、同じ理由から逆に好きに転じたのは、ある種の調和や美しさを感じるからでしょうか。

「零の発見」吉田洋一著 岩波新書

例えば、あんなに大嫌いだった証明問題など、ほとんどパズルや頭の体操のようにたのしく、毎年新聞に掲載される高校入試問題に嬉々と取り組む変わりよう(まぁ、解らなくても落第しませんし)。ただし、センター試験ともなると、まったく手が出ませんが。

そんな、下手の横好きな私を、さらに決定づける、一冊の本と遭遇。数学とは関係ない、とあるエッセイにて、この本が紹介されていました。

その書き手いわく「あぁ、若い時分に読んでいれば」に全く同感。もしかすると、数学に対する接し方が変わり、今頃は私も研究室に籠っていたかも知れません。

その方面では常識なのか、あるいは副読本なのか、1939年の発行以来、2回の改版を経て、2006年の版では99刷というロングセラー。思うに理数系よりも、むしろ数学アレルギーの人が読むべきかと。

難しい公式もなく、たとえば、有名な「アキレスと亀(足の早いアキレスが亀を追いかける、亀がいたA地点にアキレスが着くころ、亀はすこし先のB地点に、B地点にアキレスが着いた時には、亀はC地点に…と、アキレスはいつまでも亀に追いつけないという、ゼノンの逆理)」の問題などに苦悩するピュタゴラス一派の話など、知的好奇心を揺さぶってきます。ご一読を。

オレンジメイル 2009年 5月配信分


追記:「零の発見」吉田洋一著(岩波新書刊)

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