27世紀のウィスキー

銀河系に散らばる人類、時は27世紀。人間の意識はデジタル化され、頭部に埋め込んだ小さなメモリー・スタックに収められる。富裕層は、劣化した肉体(スリーヴ)を交換して永遠の命を永らえ、いっぽう犯罪者は、スタックを取り出され、精神のみを収容庫に拘禁。そして、バックアップ・コピーのないスタックが破壊されると「真の死」を迎える…。

高度な訓練と神経システムを強化した完璧な兵士集団・エンヴォイコーズ元隊員である主人公はある時、ニードルキャストによって惑星間をデジタル移送され、見知らぬ男のスリーヴにダウンロードされる。目覚めた場所は人類の故郷・地球

ここへ呼び出したのは、地球で数百年のあいだ生き続ける大富豪。その目的とは、予備のスリーヴとバックアップされたスタックのおかげで生き返ったものの、死んだ姿で発見された、大富豪当人の依頼による、スタック更新直前の空白期間を埋めるための、調査と解明…。

設定はサイバーパンク、文体はハードボイルドの海外小説。02年に発表されるや「マトリックス」のプロデューサーが映画化権を取得。凝った装丁、文章のところどころには、日本通のイギリス人著者による、日本の固有名詞が散見されるのも、何だかニヤリとさせられます。

オルタード・カーボン 」 リチャード・モーガン著(アスペクト刊)

ラフロイグ15年とオルタード・カーボン

さて、今回お送りするオレンジメイルですが、上記の小説「オルタード・カーボン」の流れに沿ったお勧めをご紹介をしたいと思います。

小説の中で、主人公が15年物のシングルモルトを愛飲する場面が、何回か出てきます。

具体的に、なんの銘柄かまでは触れられていないものの、それに倣って、こんな15年熟成のシングルモルト・ウィスキーはいかがでしょうか。

「 ラフロイグ 15年 」 LAPHROAIG 15年

毎回、少し特殊なボトルや新入荷のご紹介が多くて、意外と灯台下暗しになっていた1本です。とは言え、ラフロイグ蒸溜所は10年物のイメージが強く、5年間の熟成期間の差に加え、新たな美味しさを発見できること請け合い。独特の味わいと余韻を持つ、アイラ島のモルトです。


以前ですが、とある取材で、近未来をテーマにしたカクテルの制作を依頼された事があり、ふと思い出したのが上の小説。そこで、恐らく他のバーのバーテンダーは、奇抜なアイデアや、斬新な道具で作ったカクテルで来るだろうという読みもあり、こちらは敢えて、オーソドックスな手法で挑戦してやろうと思った次第でした。

あくまでも小説ですが冒頭の作品のように、近未来どころか、テクノロジーのはるか進んだ未来でも、いかにも人の温もりを感じさせる15年物のウィスキーが、人生に彩りを添えます。

良いものや本物、あるいはマティーニに代表されるスタンダード・カクテルなども、そのままの形で永く受け継がれていくだろうという想い、さらにそれは願いであり、そしてつよい確信でもあります。

オレンジメイル 2009年 3月配信分


追記:このコラムページは、オレンジメイルの抜粋で構成されているのですが、今回、お伝えをしたかった事が前半と後半にわたり、話の流れで中間部もそのまま載せる形になりました。長くなって済みません。いつものメールマガジン、いかに駄文が多いかよく判ります。

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