ケナクレイグ

ケナクレイグ レシピ 】

スコッチ・ウィスキー
3/4
ドライ・ヴェルモット
1/4
ポート・エレン
 
(あるいはアイラ島モルト)
1tsp
上記をステアしてカクテルグラスに注ぐ。

西麻布バーオレンジ・オリジナルカクテル「ケナクレイグ」

いわゆるスタンダード・カクテルと呼ばれるものは、数多くあります。いまでこそスタンダードの称号を冠したカクテルでも、考えてみれば、そもそもの第一歩から「スタンダード」と認知されていた訳ではないでしょう、たとえ、そう呼ばれる運命だったにしろ。

古今東西、そして有名無名のバーマンによって、恐らくひっそりと(或いは華々しく)誕生したカクテルが、飲まれ作られして徐々に評判となり、名前が与えられ、やがて多数のお客様によるご注文、という有無をも言わさない「信任投票」と「時間」を重ねることによって築かれるのがスタンダードという地位でしょうか。

時間(時代)をかけて定着したというのは重要で、例えば昨今のデジタル技術革新などに於いては、先日の標準は明日の標準ではなくなっている現実とは、明らかに異なります。ちょっと話が違いますね。

ところで、「スタンダード・カクテル」って何なのでしょうね。確たる線引きがあるじゃなし、とは言うものの、それなりの条件がいくつかありそう。思いつくまま挙げてみます。

まずは「味わい」。何といっても飲むわけですから、これは避けられない項目でしょう。ドライなら明確なドライさ加減、甘いなら徹底した濃厚な甘さ、香り立つ柑橘の酸っぱさ、そしてまたは、それらがアクセントとなり、バランスよく混和された味わい、などですね。

次に「ネーミングの妙」。意図したにせよ、そうでないにせよ、漠然とした物言いで申し訳ないですが「センス」ですね。人に捧げた名前をそのままカクテル名に、という例では、ベリーニやネグローニなど。誰に捧げるかを定めた時点でセンスが問われる、というのは言い過ぎでしょうか。逆に一見、無関係にみえる命名タイプ。もちろん、幾つかの説や、多少のエピソードがあるにせよ、ギムレットサイドカーなどは、ただただ脱帽です。

言葉に出しやすい点の考慮も、ある程度不可欠です。大の大人が注文の際、たとえば「ラブリーエンジェル〜小悪魔な天使〜(仮名です、念の為)」を下さい、と口にするばあい、よほど卓越した精神の持ち主か、でなければ、顔が真っ赤になるのを覚悟しなければなりません。

そして「作りやすさ」。特殊な材料・道具・方法であっては、やはりスタンダードとはなり得ないと思います。と、これら基本的なことプラス、現代ならば、著名な小説や映画、ドラマの小道具として登場するなど、偶発的なタイミングも求められることでしょう。スタンダードかはともかく、準スタンダードくらいの認知度のカクテルは、いくつか思いつくのではないでしょうか。

さて、大変ながいなが〜い前置きでした。「オリジナルカクテル」というコンテンツのなかで、スタンダード・カクテルの講釈とは、我ながら開いた口が塞がりません。ただ、何を伝えたいかと申しますと、この「オリジナルカクテル」ページでご紹介するカクテルの多くは、スタンダード・カクテルに寄りかかっているということです。仮にオリジナルカクテルを創る場合、偉大な飲み手と作り手が遺したカクテルを参考にしない手はない、と私は考えます。このケナクレイグも前回のイアーゴも、そして今後ご紹介するカクテルの大抵も、です。

このケナクレイグですが、バーオレンジのウェブページ「コラム集」の「オリジナル第一号」に続いての登場です。文字通り、西麻布バーオレンジにおけるオリジナルカクテルの第一歩なのですが、詳しいいきさつはそちらをご覧いただくとして、今ページではちょっと違う視点を最後に少しだけ。その視点とは、今後ケナクレイグはスタンダード足り得るか?です。

まず上記の条件の「味わい」。実は、ウィスキーと合わせるヴェルモット、個人的にはスイートのほうが好みです。ただ、創作段階のイメージとして、荒涼としたケナクレイグという土地風景やその時の心情では、ドライに軍配が挙がりました。という訳で及第点ギリギリ。

「ネーミングの妙」、こちらも微妙。悪くはないけど、馴染みにくいのは否めません。

そして「作りやすさ」。道具や方法に特別な所はありませんが「ポート・エレン」という材料がネック。閉鎖して数十年のウィスキー蒸溜所、減る一方とあっては、銘柄指定の厳格さを求めた場合、ケナクレイグを作ろうと思うのも難しい、言わば「カクテルの絶滅危惧種」。スタンダードとしては失格です。レシピの「あるいはアイラ島モルト」とあるのは、その救済措置としての付け足しです。

まだしも残っていけそうな可能性があるのは今のところ「カルヴァニック」くらいでしょうか。

「ケナクレイグ」掲載誌 エスクァイア 2000年 8月号


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